パソコンの不具合対応、アカウントの管理、ネットワークやクラウドサービスの運用、セキュリティ対策、新しいシステムの導入。こうした社内のIT業務を、たった一人、あるいは他の業務と兼任で担っている状態を、「一人情シス」と呼びます。中小企業では珍しくありませんが、担当者への負担が大きく、会社にとってもリスクのある体制です。本記事では、一人情シスが抱える課題と、負担を減らすための考え方を解説します。業務を整理する手順は、システム化の前にやるべき業務の棚卸し:進め方とポイントもあわせてご覧ください。
一人情シスが抱えやすい課題
- 問い合わせや障害への対応に追われ、システムの改善や、新しい取り組みに手が回らない
- 担当者が休めない、休んでいても連絡が来るなど、心身の負担が大きい
- 業務の内容や手順が、担当者の頭の中にしかなく、引き継げない(属人化)
- セキュリティ対策や、システムの更新が、後回しになりやすい
- 担当者が退職した場合に、ITの運用が止まってしまう
- 専門外の分野(ネットワーク、セキュリティ、開発など)まで、一人で判断する必要がある
特に、担当者の退職は、アカウントの管理方法やシステムの構成が分からなくなり、会社全体に影響する大きなリスクです。
負担を減らす6つの考え方
1. 業務を棚卸しして、優先順位をつける
まず、担当している業務を、すべて書き出します。日常的な問い合わせ対応、アカウントの発行・停止、機器の管理、システムの保守など、種類ごとに、頻度と所要時間を整理します。そのうえで、「会社にとって重要なもの」と「時間を取られているが、重要度は低いもの」を見分けます。
2. ドキュメントを残す
システムの構成、アカウントの管理方法、定期的な作業の手順、障害時の連絡先などを、文書にしておきます。完璧なものを目指さず、よく使う手順から、少しずつ書き溜めていくのがコツです。ドキュメントの重要性は、システムのドキュメント整備を怠るとどうなるかで解説しています。
3. ツールで自動化・効率化する
手作業で行っている管理を、ツールに置き換えます。たとえば、PCやライセンスの管理はIT資産管理:PCやライセンスを一元管理する方法、問い合わせの管理や、定型的な作業の自動化は、iPaaSとは?SaaS同士をつないで業務を自動化する方法が参考になります。
4. 利用者が自分で解決できる仕組みをつくる
よくある質問と回答、操作のマニュアルを、社内で共有しておくと、同じ問い合わせに何度も対応する手間が減ります。マニュアルの整備には、生成AIの活用も有効です(生成AIで社内マニュアル・ナレッジを整備する方法)。
5. 外部の力を借りる
すべてを社内で抱え込まず、外部の専門家に任せる範囲を決めます。システムの監視、障害対応、セキュリティの更新など、専門性が必要な部分や、定型的な作業を委託すると、担当者は、会社のIT戦略や社内調整といった、社内でしかできない仕事に集中できます。委託のメリットは、システム運用保守を外部委託するメリットとは?で解説しています。
6. 経営層と、ITの優先度や予算を共有する
一人情シスの負担が解消されない大きな原因は、ITが「コスト」とだけ見られ、必要な人員や予算が確保されないことです。ITの現状のリスクと、必要な投資を、数字や具体例で経営層に伝え、合意を得ることが重要です。予算の考え方も、あわせて共有しておきましょう。
社内で持つ業務と、外部に任せる業務の切り分け
どこまでを外部に任せるかは、会社の状況によって異なりますが、一般的には次のように考えると整理しやすくなります。
- 社内で持つ:IT戦略の判断、社内の調整、現場の要望の取りまとめ、外部会社の管理
- 外部に任せる:システムの監視と障害対応、セキュリティの更新、専門的な技術の作業、深夜や休日の対応
「判断」と「調整」は社内の担当者が、「専門的な実作業」は外部が担う形にすると、役割分担が明確になります。
最低限、整えておきたいセキュリティ対策
限られた人員でも、次のような基本的な対策は、優先して整えておきたいところです。
- 主要なサービスへの多要素認証の導入(パスワード管理・多要素認証で防ぐ不正アクセス)
- 重要なデータのバックアップと、復元の確認
- 退職者や、使われていないアカウントの定期的な棚卸し
- OSとソフトウェアの更新の管理
- 不審なメールへの注意喚起と、報告のルール(標的型メール・フィッシング対策:従業員教育と訓練の進め方)
進め方に迷う場合は、IPA(情報処理推進機構)が公開している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」などの公的な資料も、出発点になります。
兼任のIT担当者が、まず着手したいこと
総務や経理などと兼任で、IT担当を任されている場合は、最初から大きな改善を目指す必要はありません。まずは、会社が持っているパソコン、ソフトウェア、クラウドサービス、アカウントの一覧を作ることから始めましょう。何がどこにあるのかが分かるだけで、トラブル時の対応や、セキュリティの見直しの土台になります。
よくある質問
Q. 外部に委託すると、コストが増えませんか?
A. 委託の費用はかかりますが、担当者が対応に費やす時間、障害時の業務停止のリスク、担当者の退職による影響と、比較して考えることが大切です。業務を切り分けて、必要な部分だけを委託すれば、費用を抑えながら、負担を減らせます。
Q. 担当者が一人しかいない場合、休暇中の対応はどうすればよいですか?
A. 緊急時の連絡先と、初動の手順をドキュメントにまとめ、他の従業員でも、最低限の対応ができるようにしておきます。外部の保守サービスと契約して、休暇中の障害対応を任せる方法もあります。
まとめ
一人情シスは、問い合わせ対応に追われ、属人化や退職のリスクを抱えやすい体制です。業務の棚卸し、ドキュメント化、ツールによる効率化、利用者のセルフサービス化、外部の活用、経営層との認識合わせの6つの視点で、負担を減らしていきます。社内でしかできない「判断」と「調整」に集中し、専門的な作業は外部に任せる形を目指しましょう。