システム開発の相談で、最初につまずきやすいのが「そもそも、何をシステム化したいのか」が曖昧なままになっていることです。現状の業務を把握しないまま進めると、不要な作業までシステムに作り込んだり、肝心な業務が抜け落ちたりします。そこで役に立つのが、業務の棚卸しです。本記事では、棚卸しの進め方と、整理する項目、システム化する業務の見極め方を解説します。この後に続く要件の整理については、見積もりで損しない!システム開発の要件定義の書き方もご覧ください。
なぜシステム化の前に棚卸しが必要なのか
業務の棚卸しをせずにシステムを作ると、次のような問題が起こりやすくなります。
- 本来やめてよい作業まで、そのままシステムに再現してしまう
- 例外的な処理が漏れ、稼働後に「この場合はどうするのか」が次々に出てくる
- システム化の前後で何がどれだけ改善したのか、効果を測れない
- 担当者ごとにやり方が違うことに気づかず、現場から使いにくいと言われる
棚卸しは、システム化の効果を最大化するだけでなく、開発会社に正確に要望を伝えるための土台にもなります。発注前の準備全体は、システム開発を発注する前のチェックリストで確認できます。
棚卸しの進め方
ステップ1:業務を洗い出す
まず、対象とする部署や範囲を決め、担当者へのヒアリングで、行っている業務を一覧にします。「毎日・毎週・毎月・年に数回」といった頻度別に聞いていくと、抜け漏れが減ります。完璧を目指さず、まずは思いつくものを書き出すことが大切です。
ステップ2:業務ごとに情報を整理する
洗い出した業務について、次の項目を整理します。
- 業務の目的(何のために行っているか)
- 担当者と、関係する人(承認者、依頼元、提出先)
- 頻度と、1回あたりの所要時間
- 使っているツール(Excel、紙、メール、既存システムなど)
- インプット(何を受け取るか)とアウトプット(何を渡すか)
- 困っていること(ミス、待ち時間、属人化など)
ステップ3:業務の流れを図にする
業務の流れを、簡単な図にします。誰が、何を、誰に渡すのかが分かれば十分で、手書きやスライド、Excelでも問題ありません。図にすると、待ち時間が発生している箇所や、同じ情報を何度も入力している箇所が、見えてきます。
ステップ4:課題と優先順位をつける
整理した業務のなかから、「頻度が高い」「時間がかかる」「ミスが起きやすい」「特定の人にしか分からない」ものを、優先度の高い候補として選びます。改善の効果と、実現のしやすさの2軸で並べると、判断しやすくなります。
棚卸しで見つかりやすい課題の例
- 同じ顧客情報や取引情報を、複数のExcelやシステムに重複して入力している
- 担当者ごとにExcelの形式が違い、集計のたびに手作業で整えている
- 承認や確認の待ちで、業務が止まっている
- 一部の担当者しか手順を知らず、休まれると業務が回らない
- 紙で受け取った情報を、手で入力し直している
Excelでの管理に課題が多い場合は、Excel管理からの脱却:データベース化を進めるステップも参考になります。
システム化する業務・しない業務の見極め方
棚卸しをしたからといって、すべてをシステム化する必要はありません。業務そのものを見直すことで、解決できる場合も多くあります。
- そもそも不要になっている業務は、システム化せずにやめる
- 手順やルールを簡単にするだけで解決するものは、先に運用を改善する
- 頻度が低く、ごく稀に発生する例外処理は、システム化せずに手作業で残すという選択もある
- 頻度が高く、時間がかかり、ルールが明確な業務は、システム化の効果が大きい
ルールが明確で繰り返しの多い作業は、システム化だけでなくRPAなどの選択肢もあります。判断の基準は、RPAとシステム化、どちらを選ぶ?業務自動化の判断基準で解説しています。
進めるときの注意点
現場を巻き込む
棚卸しは、「現場のやり方を点検する」と受け取られると、警戒されます。目的が、現場の負担を減らすことであると伝え、日常の業務を一番よく知っている担当者に、協力してもらいましょう。
完璧を求めすぎない
すべての業務を網羅しようとすると、時間がかかりすぎます。まずは1つの部署、または1つの業務の流れから始め、そこで得た進め方を他の部署に広げていく方法が、現実的です。
例外の聞き取りを忘れない
通常の流れだけを聞くと、例外的なケースが漏れます。「うまくいかなかったのはどんなときか」「イレギュラーな対応はあるか」と、あえて尋ねてみてください。システムの設計では、この例外こそが重要になります。
よくある質問
Q. 棚卸しには、どれくらいの期間がかかりますか?
A. 対象範囲によって異なりますが、1つの部署・1つの業務の流れであれば、数週間程度で一通りの整理ができることが多いです。最初から全社を対象にせず、範囲を絞って始めることをおすすめします。
Q. 業務フロー図は、専用のツールが必要ですか?
A. 必須ではありません。手書きのメモや、スライド、Excelでも十分です。大切なのは、関係者が見て、現状を共有できることです。
まとめ
業務の棚卸しは、システム化の効果を高め、開発会社に正確に要望を伝えるための第一歩です。業務を洗い出し、情報を整理し、流れを図にして、優先順位をつけていきます。すべてをシステム化するのではなく、やめる・簡単にする・手作業で残すといった選択肢もあわせて検討しながら、効果の大きい業務から着手しましょう。